夜明けのすべて
この文章のタイトルである、瀬尾まいこ『夜明けのすべて』は知人からプレゼントでもらったもので、タイトルを聞いたときは「大きく出たな」という印象を持った。 夜明けの「すべて」というからには、それ相応のドラマチックな物語なんだろうなあと思っていたけど、読み終えたら、ドラマチックというよりは、こうじんわりと心に来るものがある、暗がりが徐々に白んでいき、気づいたら明るくなっていた。そんな感じの優しい本だった。
簡単に言うと、パニック障害の男と重度のPMSの女が、お互いに少しずつ助け合っていく、といった感じのあらすじだ。 精神科だったり心療内科だったりにお世話になったことがある人はわかるかもしれないが、自分は時々どうしようもなく苦しくなって、感情の制御が効かなくなり、もうだめだと、死ぬしかないとなる時がある。 同じように、主人公の2人は、一方は苦しくなって動けなくなり、もう一方は感情の制御が効かなくなる。 まあこの本はパニック障害とPMSで、自分はうつ病なので、ちょっと性質は違うかもしれないが、この人たちの、症状が出た時のやりきれなさが、なんとなく、もしかしたら、よく、かもしれないが、わかったし、想像がついた。 いや、別にうつ病じゃなくったってどうしようもなく苦しい時だってあるし、感情のコントロールができない時だってあるが、まあそこは程度問題ということで。 何が言いたいかというと、自分は主人公たちに共感できたということだ。 10年前の自分は色々と苦しかったし、これからどう生きていくか、みたいなのがほとんど見えなかった。 そういうのが主人公たちと重なって、過去の自分を眺めているようで、ウンウンそうだったよなと後方腕組みしたくなった。
ほかにこの本で気に入った部分は、他人からのまなざしと、少しの気づかいが、その人を助けてくれることもある、ということを描いているところだ。 逆境、とまではいかなくても、落ち込んだり、マイナスの状態から復活する時って、何か劇的な出来事だったり、チョーうれしいことが起こったり、そういうタイミングではなく、ふとしたことに気づいたり、ちょっと良いことがあったり、そういう時に「もう大丈夫だ」と気づいて回復してくることがある、そんな感じが多い、気がする。 マイナスの時って、日常をまともに送れていないことが多い気がする。 日常をまともに送るとは、小さな「できたこと、良かったこと」を積み重ねていく、という意味で、まあ今考えたんだけど。 全部ダメなときってそうそうなくて、一日過ごしていれば何個かはいいことあるし、それをちゃんと積んでいくことができれば、そんなに自分って悪くないものだ。 でもマイナスの時って、そういうのが全部見えないか、全部ダメに見えて、積み重ねることができないことが多い。 そういう時に他人からのまなざしと、少しの気づかいが重要になってくると思う。 主人公たちは、お互いがお互いの小さな変化を見ていて、それに合わせて少しだけ気づかいしたり、良いところをボソッと言ったり、ちょっと手助けしたりする。 あなたの頑張りを誰かが見てくれていて、あなたの見落とした良かったことを拾い上げてくれること、ちょっとだけはげましてくれること。 これが一番ありがたいなあと最近思っていて、そんなときにちょうどこの本が代弁してくれた。 ありがとうございます。